脳卒中の回復過程はどのようなメカニズムか?

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脳卒中になると脳細胞が壊死してしまいます。単純にそれだけを考えると、失った機能は元に戻らないように思えます。しかし実際には、脳が少しずつ回復することで、運動麻痺・感覚障害・高次脳機能障害が少しずつ改善します。さて、果たして脳の中ではどのような変化が起こっているのでしょうか?この記事では脳損傷後の回復過程について紹介します。

局所過程

脳損傷後の回復過程は「局所過程」と「再組織化」に分類出来ます。まずは局所過程について解説します。これは①脳浮腫の改善、②ペナンプラの改善、③ディアスキシスの改善の三種類に分けられます。

①脳浮腫の改善

時期:数週間~8週間

脳損傷が生じている周辺領域では浮腫が生じています。ケガをすると周囲が炎症を起こして腫れてしまいますよね、それが脳でも起こると考えてください。浮腫によって脳組織が圧迫されていると、一時的に機能不全を生じ、脳損傷されている部分と同じ状態に至ります。

ケガの炎症が自然と引いていくように、脳においても浮腫は少しずつ軽減し、機能回復を認めていきます。個々の状態によって異なりますが、改善は8週まで続くという報告があります。また、保存的に様子を見る場合もありますが、脳浮腫が長期化しないように医学的処置が行われる事も少なくありません。

②ペナンプラの改善

時期:数時間~数週間

ペナンプラとは、脳細胞で壊死を免れている部分が機能低下を起こしていることを指します。脳梗塞などの虚血病変により、その中心部から少し離れた部分は脳細胞が壊死しない程度の血流低下を起こします。これにより機能低下を起こし、壊死部分と同じ状態を呈します。

血流低下していて半壊死状態にあるため、そのまま放置していると、本当に壊死してしまいます。そこで、超急性期であれば血栓溶解療法によって改善を認めるとされています。脳梗塞になってから「3時間以内にt-PA出来るかが大切」というのはこの点にかかります。

③ディアスキシスの改善

時期:数日間~数ヵ月間

ディアスキシスとは、「機能乖離」「遠隔性機能障害」とも呼ばれます。これは、直接的に障害されていないにも関わらず、遠隔の神経線維が連絡している脳部位にも血流低下を生じ、その脳部位にも機能障害が生じることです。脳梗塞周囲だけでなく、対側の大脳皮質・小脳などの遠くにも影響が出るとされています。しかし、当該部分は一時停止しているような状態であるため、ゆっくりと改善していくとされています。

再組織化

局所的改善は基本的に自然回復、ドクターによる医学的処置に基づくものです。そのため、療法士はこの回復過程にしっかりと乗せるような(阻害させないような)関わりをしていくことが求められます。一方、再組織化とは、①アンマスキング、②側芽形成、③シナプス形成の三種類に分けられるもので、療法士の運動療法などにより回復を促せる部分になります。

①アンマスキング

もともと存在していたが、使っていなかったシナプス結合が顕在化することです。ずっとお休み状態だった神経経路が眠りから覚めて活動する状態と考えてください。

例えば、皮質脊髄路は85%が対側、15%が同側を走行します。片側の皮質脊髄路が障害された時に、もう片側の15%が活動することにより、運動麻痺の改善が図られます。他にも一次運動野が障害された時に補足運動野・運動前野が活性化する場合もこれにあたります。運動療法によってこのように活動させることが、脳損傷後の回復過程の一つとなります。

②側芽形成

損傷された神経細胞もしくは近くの神経細胞の軸索から、新たに神経側芽を生じ、新経路を形成することです。「おいおい、この道渋滞してるから、新しい道路を作ろうぜ!」と、神経が自分で判断して、新しい道を作るのです。これは損傷後2~4週で最も多いと報告されており、この期間に運動療法を積極的に行うか否かは重要であると考えられています。

③シナプス形成

シナプス形成は興奮性結合・抑制性結合の二種類に分けられますが、抑制性結合が重要とされています(シナプス前抑制とか後抑制とか、聞いたことありますよね?)。

さて、共同運動パターンを想像してください。これは小さな力を出そうとしても、コントロールしきれずに大きな力が出てしまう状態と捉えることが出来ます。これは普段では抑制性に働いている神経回路が上手く働かないために、続いて連結している神経細胞が興奮性に働いてしまい、結果的に出力が大きくなってしまうものです。これに対し、抑制性に働く神経回路が新たにシナプス形成されることで、出力しすぎてしまう状況を抑えることが可能となり、適切な筋出力が可能となります。

おわりに

以上が脳損傷後の回復過程と考えられています。しかし、ここまで述べながら未だ確定的にこれだ!とはっきり分かっている部分は多くありません。療法士としては、脳画像を診ることで「これは浮腫だから、ここまで回復が見込めそうだ!」と予後予測に利用したり、「現在の回復は、局所過程によるものが認められにくいから、運動療法によるものだ!」と治療効果を判断すべきポイントにもなります。超急性期で自然回復や医学的処置により改善を認める患者さんに対して「理学療法によって良くなってきた!」と的外れな考察をしないためにも、ある程度回復過程について知っておく方が良いでしょう。

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