療法士が肥満患者さんを担当することは少なくありません。
肥満はそれ自体が問題になるばかりか、効果的なリハビリを行うことを阻害してきます。
理学療法士として関わる際には、肥満という疾患名で処方されるわけではありません。しかし、何かと考慮しながら理学療法を展開していかなければなりません。
そのためには運動療法の方法だけでなく、肥満に対する基礎知識や栄養管理も含めて知っておかなければなりません。
そこで、肥満患者さんを担当する時に知っておきたい基礎知識をまとめました。
肥満とは

PublicDomainPictures / Pixabay
まずは肥満について復習しましょう。
肥満とは体重が重い人…のことではありません。体における脂肪組織が過剰に増加した状態のことを指します。
肥満の定義
その定義は次のようにされています。
- 脂肪組織が過剰に蓄積した状態でBMI25以上のもの
つまり「太ってて、その中身が脂肪組織だったとき」に肥満と定義されるのです。
とはいえ、脂肪組織の量を測定することは簡単ではありません。正確に知るためには、MRIやCTといったリハビリ室では到底扱えないようなものを使う必要があります。そうそう、最近では家庭用の測定器がたくさん出ているので、簡易な評価としては非常に有用です。
そこで、これまで安くて簡便な機械がなかったので、評価として使われてきたのがBMIです。
BMIとは『体重÷身長÷身長』で表現される肥満度のことです。BMIの数値が高いほど肥満とされていて、その分類は下記のようになっています。
BMI | 判定 |
<18.5 | 低体重 |
18.5~25 | 普通体重 |
25~30 | 肥満:1度 |
30~35 | 肥満:2度 |
35~40 | 肥満:3度 |
40< | 肥満:4度 |
肥満の上の「高度肥満」!?
BMIが25以上が肥満と定義されていますが、その上の『高度肥満』とよばれるものがあります。
BMIが35以上の時のことを指しており「肥満にもほどがあるでしょ!」というような状態です。
実際、病院に入院してくる患者さんにもBMI35以上だろうな…という人がぽろぽろといます。そしてクリニックなどの自宅生活が可能な人になってくると、そこそこいます。
病院勤務している療法士であれば知らない人も多そうですが、実は高度肥満なのに何の減量にも取り組んでいない人ってたくさんいるのです…想像しただけでぞっとしますね。
すいません…この表紙を使いたかっただけです…。
では、体脂肪率は?
肥満や脂肪という言葉を聞いて思い浮かべるのは「体脂肪率」ではないでしょうか。
体脂肪率とは『体脂肪量÷体重×100』で表現される、脂肪の割合のことです。
- 男性:25%以上
- 女性:30%以上
上記が肥満と呼ばれる目安となっています。「体脂肪率25%なんて~!」と思うかもしれませんが、これまたそこそこ見かけるレベルです。飲み屋さんでいつも一人でいるようなビッグサイズのサラリーマンは、この領域に達している人が少なくありません。飲みすぎには気を付けましょう。
一人飲みの際には太らないレシピに気を使いましょう!
肥満は病気?
さて、このように肥満は定義されていますが、実は疾患として扱うか否かが分かれています。
- ✕:肥満に起因する健康障害がない
- 〇:肥満に起因する健康障害がある
健康障害が生じていて、対処しなければならない…このような時に『肥満症』として定義され、疾患として扱われるようになります。
また、健康障害を生じていなくても、将来的には何らかの疾患に至る可能性は高いものです。「別に困ってないし~!」なんてほおっておかず、かならず予防的な介入をしておく必要があります。
大豆プロテイン…?
肥満は生活習慣病に影響?
肥満になっていると、様々な疾患に繋がることが示唆されています。
- 糖尿病
- 高血圧
- 脂質異常症
その中でもこの3つは特に肥満との関係が強いと言われています。
それぞれが単独でも身体の不調に繋がったりするものですが、これらが動脈硬化を引き起こし、いずれは心筋梗塞や脳梗塞といった重大な疾患に結びつくものです。
肥満になってて良いことは一つもないので、やっぱり元気に長生きしていきたいものです。
内臓脂肪と皮下脂肪
肥満…脂肪と聞いて思い浮かべるものに内臓脂肪と皮下脂肪があるではないでしょうか。
内臓脂肪:腸管などの内臓の周辺に脂肪が付くと、お腹(ウエスト)のあたりがポコッと出てきます。やせ型や普通体型の人でも、ウエストが太くなったら要注意。30歳以上の男性に多くみられ、生活習慣病に関係が深いタイプの脂肪です。
皮下脂肪:二の腕、お尻、太もも、下腹などに付きやすく、プロポーションのくずれの原因となります。女性に多くみられ、生活習慣病との直接的な関係は薄いとされますが、皮下脂肪が多くなると内臓を圧迫し、さまざまな弊害をもたらすこともあります。
omronHPより
一般の方でもよく知っているものですが、皮下脂肪はまーまーほおっておいても大丈夫なものです。生活習慣病に結びつくとはあまり言われていません。
気を付けたいのは内臓脂肪!
年齢を重ねると徐々に増えてくるのが内臓脂肪で、生活習慣病に結びつきやすいものです。危険な理由としては下記のものが挙げられています。
- 血中の脂質濃度を高める
- インスリン抵抗性を悪くする
- 血圧を上昇させる
また、BMI25未満でも「ぽっこりお腹」の人で「隠れ内臓脂肪持ち」の人がいます。そこでウエストの測定によってチェックすることも一つです。
- 男性:85cm~
- 女性:90cm~
が「内臓脂肪あり」とされています。もし気になった方は測ってみて、ぽっこりお腹の人はBMIがセーフでも気を付けた方が良いでしょう。
肥満に対する食事療法
さて、肥満が良くない事はご理解いただけたと思います。

stevepb / Pixabay
そこで肥満に対する治療として中心的役割を果たすのが、食事療法です。リハビリ職が直接コントロールすることはないですが、把握しながらリハビリを進めることは必要です。
食事療法の原則
痩せることが必要=「摂取エネルギー<消費エネルギー」
という実にシンプルな考え方が原則です。
ちなみに、食事療法とは…
- エネルギーの量を調整
- 構成成分の調整
などによって疾患の予防・治療を図る事です。
肥満患者さんの食事療法の難しさ
- 摂取エネルギーを減らす:食べる量を減らす
- 消費エネルギーを増やす:運動量を増やす
このような調整をすることが必要ですが…それ肥満患者さんにとっては非常に難しい!
だって食べすぎ・運動しなさすぎの生活習慣が長期間続いたことで肥満になっているのですから、「はい、何とかしましょう!」といきなり言われたところでしっかり取り組めるわけではありません。
ダメと言われて取り組んでみるけど…やっぱり食べちゃう…運動するのはもういいや…となってしまうのが現実的なところです。
食事療法の目標
運動によって消費エネルギーを増やすことは運動療法によって解説しますね。
摂取エネルギーを減らす…となると「よし!野菜だけ食べとけ!」みたいに急な食事変更をさせたいものですが、いきなりガリガリになるような設定をするのは良くないものです。
まずは3-5%の減量を目指すようにしましょう。
食事療法で大切な「治療食」

jill111 / Pixabay
肥満の方の治療食では次のような設定をします。
- 1000-1800kcal:肥満症治療食
- 600kcal以下:very low calorie diet
え!?600kcal!?そんなので生きていけるの!?と思うかもしれませんが、そこで工夫としてフォーミュラ食というものが利用されます。
very low calorie dietで使う『フォーミュラ食』
あまりに低いエネルギー設定で食事を作ると、大切な栄養素を確保することが出来ません。そこでフォーミュラ食が活躍します。
フォーミュラ食:糖質と脂質を極力減らして、必要なたんぱく質・ビタミン・ミネラルを含んだ調整食品である。1袋80~120kcalの粉末状であり、1袋を400mlの見ずに溶かし、一食分の食事に置き換えて飲む。
静脈経腸栄養テキストハンドブックより
very low calorie dietでは全ての食事をフォーミュラ食に置き換えることで、エネルギー調整を行い、かつ必要な栄養素を確保するというものです。
下記の商品がフォーミュラ食の代表的なものです…患者さんの気持ちを知るためにも、一度ご自身で一食試してみてはいかがでしょうか…。
*一日全ての食事をフォーミュラ食に変更するのは、自己判断ではしないように!
おそらく試してみると分かるのですが、普通の食事によって体重コントロール出来ている人でも、かなり空腹感が苦しいものです。肥満で食事量が多い人がそれを何日も行っていくものですから、その苦しさはかなりのものになるでしょう…。
食事療法後の注意点:リフィーディング症候群
- フォーミュラ食を行った後に普通職に戻す時
- 長期の絶食後に食事を始める
このような場合にはリフィーディング症候群に気を付けなければなりません。
リフィーディング症候群:慢性的な半飢餓状態の代謝に適合している患者に大量のブドウ糖を急激に投与する事で、主に体液量と電解質の移乗に関連した重篤な心肺機能及び死刑系の合併症を引き起こし、死に至る危険性が高い症候群。
静脈経腸栄養テキストハンドブックより
低栄養の患者さんに「よし!栄養をたくさん投与しよう!」と思い切って行ってしまうと、リフィーディング症候群になってしまうことがあります。徐々に、段階的に、摂取エネルギーを高めていく必要があります。
リハ栄養では低投与エネルギーが問題視されることが多いものですが、過投与エネルギーも実は問題になるものです。知らないで「食べろ食べろ!」は危険です。
エネルギー量の設定

jarmoluk / Pixabay
さて、肥満治療食でも1000-1800kcalと、割と幅の広い範囲が設定されています。これは患者さんごとに合わせて設定してね!ということです。
単純に減量を考える時には-200~300のエネルギー設定を行うべきです。必要なエネルギー量を測定するには様々な方法がありますが、まずは一番簡単な体重から導き出せる、簡易式を用いてみれば良いのではないでしょうか:体重から算出する簡易式『25~35×体重』
人が体重減量には1kgあたり7000~13000kcal必要とされています。って「幅ありすぎだろ!」と突っ込みたくなりますよね…。あくまでも目安程度で覚えておきましょう。
一日250kcal減らすと「250×30=7500kcal」となり、一ヵ月で1kgの減量を図ることが出来ます。
減量って「一ヵ月で5kg落ちた!」とか必要そうに感じますが、そんなに急激に落とすものではありません。ぼちぼちでよいのです。
栄養素の決定

Myriams-Fotos / Pixabay
さて、減量を進めていくと遭遇するのが「体重落ちてたけど、実は筋肉が減ってただけだった!」という状況です。
筋肉って体が飢餓状態になるとすぐに分解を始めて、エネルギーになろうと頑張ってくれるものです。だから痩せてると喜んでいたら、ただ筋肉が落ちているだけだった…という事態に陥りやすいのです。
実際SNSで見た投稿で「摂取エネルギー減らして体重1kg落ちてたけど、脂肪が+0.2、筋肉が-1.2だった!」みたいなものがありました。ちゃんと体組成計で測らないと見た目では分からないので、ほんとうに気を付けたいものです。
筋肉とはたんぱく質によって構成されますので、たんぱく質は確実に確保した食事を設定しましょう。
- 体重1kgあたり1.0~1.2g/day
が必要量となります。ここに運動を加わっているともう少し必要になってきますので、まずは最低ラインと覚えておきましょう。
日常的に出来るちょっとした心がけ
食事療法というと難しく感じるかもしれませんが、実はちょっとした心がけも大切なことが報告されています。肥満予備軍の人も、日常的な取り組みを行ってみてはどうでしょうか?
間食しない
当然ですが3食のエネルギー量を調整していても、間食でエネルギーを増やしてしまっては意味がありません。よく肥満患者さんが「食べてないんだけどねぇ~」ということがありますが、確かに食事は食べてないことが多いのです。で、「食べてる」にカウントされない間食があったりします。食べてるでしょ!と突っ込みたくなりますが…食べてるんです。
よく噛む
噛む回数が多いほど、満腹感が得られていきます。というのも噛む回数が少ない人は短時間で食べ物が胃に入っていくために、満腹中枢が刺激されないのです。噛む時間をとることで、ゆっくりと胃に入るようになって、満腹中枢が刺激されます。噛むのがうっとおしい!という人がいますので、私は水分摂取を合間合間で「流さないように」飲むことを推奨しています。水で腹が膨れるんです。
食物繊維をしっかりとる
食物繊維が多いものは、概して脂質・糖質の吸収を抑制するものです。またカロリーが低いものも多いです。きのことかわかめとか、ね。そして便通も良くなるので、体重管理にはもってこいです。私はわかめが好きなので、晩には必ずわかめと野菜を食べてから他の食事を食べるようにしています。おいしいですよ。
やっぱり3食バランスよく
とりわけ朝食と昼食が大切です。なぜなら、我慢して一日過ごしていると晩御飯に一気に大量のエネルギーをとってしまうからです。「今日はお昼抜いたから、晩は疲れたし、食べよう!」という人は、めちゃエネルギー摂取量が多いものです。朝からしっかり食べて、夜までもたせる。寝る前はお腹いっぱいにしておかない。これが大切です。
アルコールはほどほどに
アルコール自体にエネルギーがそこそこ含まれていますし、お酒を飲んでしまうと味の濃いものが欲しくなってしまいます。唐揚げとか塩辛とか…最高ですよね。毎日お酒を飲んでおつまみで過ごす…という人がいますが、栄養素はかたよりますし、エネルギーも過剰になっていることが否めません。ほどほどにね。
ライザップはやりすぎという話もありますが、結果へのコミット力が半端ないですよね。
肥満に対する運動療法
さて、ここからがリハビリ職の出番になります。

skeeze / Pixabay
やっぱり有酸素運動だ!
肥満に対して効果的な運動…といえば、やはり有酸素運動を思い浮かべるのではないでしょうか?
- ジョギング
- スイミング
- エアロバイク
これらのような長時間続けることの出来る運動が有酸素運動です。有酸素運動によって、運動時に使うエネルギーが糖などのすぐに消費できるものでなく、脂肪といったゆっくり消費するものを燃焼させることが出来ます。
ダイエットと聞いて、サウナスーツのようなものを着てジョギングする…というのを思い浮かべてしまいますよね。正解です!
有酸素運動の必要な時間や量
推奨されている時間や量は様々です。
- 30分以上を毎日
- 10分を週3回
- 20分以上を毎日
出来るだけエビデンスのしっかりしたものを提供したいものですが、実際には全ての患者さんが必要量を継続出来るわけではありません。
大切なのは目の前の患者さんが継続できる運動を処方することです。
10分のウォーキングを継続出来る人もいれば、毎日水泳に行くのが楽しみな人、駅でエレベーターを階段にするだけで精一杯の人…それぞれの生活や性格に応じて実践出来るような運動を評価し、処方するようにしましょう!
脂肪を燃やしましょう!
筋力増強は効果的?
実は筋力増強も効果的なんです!
それは「筋力増強によって筋肥大を起こす→基礎代謝量がアップする=エネルギー消費量が増える」というメカニズムがあるためです。
筋力増強も有酸素運動の考え方と一緒で、その患者さんに合った運動を処方する必要があります。
- 駅で電車待ちの時間にスクワット
- 朝仕事に行く前に踵上げ
- テレビを見ながら腹筋や背筋
運動処方よりも行動変容が大切だ!
療法士は適切な運動は何か?どんな運動が合っているか?必要な負荷量はどれくらいか?このような運動処方は非常に得意としています。
「よりも」というのは運動処方についてはすでに考えることができるはずですから、「よりも」行動変容を考えていこう!ということです。
行動変容とは「人の行動が変わること」です。
- 何も取り組もうとしなかった人が、取り組もうとする
- 取り組んでみようと思って、実際に取り組む
- 取り組んでみて、それを継続する
どうすれば取り組もうとしてくれるか…どうすれば実際に取り組んでくれるか…どうすれば継続してくれるか…について考えていくのです。
リハビリ領域についてよく述べられているものとして、応用行動分析学を利用したものがあります。実際に下記の本では、歩行量を変化させることが出来た症例について報告していたりするので、是非とも読んでみてください。
療法士が肥満患者さんと関わる時の注意点

KeithJJ / Pixabay
肥満の改善には大きく2つの方法があります。
- 食事療法
- 運動療法
食事と運動のどちらが大切?というのではなく、両者を組み合わせて取り組むことで効果的な肥満改善へと結びつきます。
療法士が運動療法について考える時には、摂取エネルギーや消費エネルギーを考慮しなければなりません。
- 過剰に消費エネルギーが高ければ、身体に過剰な負担をかけてしまいます
- たんぱく質が十分でなければ、筋肉ばかり減少してしまいます
月に1kg減を目標にして、長期的に改善させるように関わっていかなければなりません。
この記事で述べた食事療法を頭に入れながら、運動処方していくことでより精度の高い運動療法が展開出来るはずです。
自信をもって肥満患者さんと関われるようになってくださいね!