「人」を知るためのコミュニケーション【理学療法士:大場潤一郎氏(関西リハビリテーション病院)】

関西リハビリテーション病院にて理学療法科主任として従事する、大場潤一郎氏。

病院にて臨床業務・マネジメント業務を行う傍ら、「脳卒中患者の歩行機能再建」「寝返り・起き上がり・歩行の動作分析」「バイオメカニクスの観点からみた歩行分析」といった内容についての講師活動も行っている。

今回、回復期病棟での9年間のキャリアを通して見えてきた「理学療法士に必要なコミュニケーションスキル」についてインタビューを行ってきました。

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理学療法士には「原因追及」する能力が必要

——そもそも理学療法士として、どんなことに興味を持って臨床に取り組んでいたのですか?

大場:病院では脳卒中患者さんを担当することが多いため、やはり脳卒中について興味がありました。だから、必然的に勉強会に行くことが多かったですね。そして、色々セミナーに行く中で、脳画像やバイオメカニクスを「おもしろいな~!」と感じて、積極的に勉強していました。今は仮説を検証していくような「原因追及」の仕方に一番興味がありますね!

——なるほど。では、臨床場面で「コミュニケーションが必要だな~!」と思う場面はありますか?

大場:あります。例えば…今も回復期病棟で勤めているんですが、患者さんに「退院するための目標はどうしましょう?」というようなことを聞く場面に遭遇します。すると患者さんは「歩いて帰れるようになりたい」といったように、すごく大雑把に答える場合があります。それをセラピストが真に受けて「よし、歩く練習をしよう!」となってしまうんです。

——確かに、そのようにストレートな発想は多いですよね。

大場:でも歩くというのは移動手段なんですよ。本当は「〇〇しながら歩く」といったように、ただ単に歩くなんて事はないんですよね。そこで「〇〇」を知っていないと、転倒に繋がってしまうことが多いのです。

——ただ歩くだけだと、転倒に?

大場:そうです。実際に生活で歩く時には、足がクロスするような場面があったり、色んな環境に注意を向けなければいけなかったり…色んなパターンの「歩く」というものがあるんですよね。それをちゃんと獲得しておかないと、転倒に繋がるんです。だから、その人がどんな生活環境にいて、どんな行動をしていて…転倒に至るであろう原因を追究して考えていく必要があります。

——そこでコミュニケーションが役に立つ…

大場:そう。患者さんとしっかりコミュニケーションがとれないと、色々と聞くことが出来ないんです。獲得すべき「歩く」が分からない。獲得すべき「歩く」を知るために、コミュニケーションは重要だと感じています。

——その発想でいくと…歩行以外でも重要ですよね?

大場:もちろんそうです。例えば、痛み。何らかの痛みがある人というのは、局所だけが悪い…ということばかりではありません。なのにセラピストは「どこが痛いですか?」「どれくらい痛いですか?」といった質問を投げかけて、表面的な介入ばかりをすることがありますよね。それでは再度痛みを出してしまう…。

ではなく「次に同じ痛みを出さない」ことを考えていく。そのためにはコミュニケーションをとって問題となる生活習慣や特異的な動きを見つけ、その根本的な改善を狙っていく必要があります。このような関わり方も専門家には求められていると考えています。

——「原因追及」をより深く行っていくためにコミュニケーションが役に立つのですね。

患者さんが「する」リハビリを

大場:リハビリって「受ける」ではなくて、「する」ものだと考えているんです。

——能動的に参加する?

大場:そう!能動的になるためにも「セラピストの言い方」「セラピストの引き出し方」が重要になってくるんです。そこでコミュニケーションとして、ティーチングやコーチングというものを理解しながら関わっていかなければならない…そういう面も必要だと思っています。そう、マズローの欲求段階や行動変容モデルを臨床場面で考えることも多いですよね。

——能動的になることで、どのような効果があるのでしょうか?

大場:まず、普段の生活でもリハビリとなる活動に取り組んでもらうことが出来ます。広く言えば自主トレのようなものをイメージしてもらえると良いと思います。

そこから次第に、患者さんが能動的に「どういう風に解決すればいいですか?」となって、ハンズオフ出来るような関係を作っていくことが重要だと感じています。なぜなら、患者さんの生活にずっと自分が関わることが出来ないから、何十年と続く生活の中で「どのように対処すればいいのか」「どんな身体の動かしたら良いのか」を考えれるようになっていかなければならないのです。

——なるほど。まとめると、大場さんの中では「原因追及」「能動性」この2つが、コミュニケーションに強く関連していると感じているのですね。

大場:そうです。専門家としてのスキルは、この2つを持っているとちゃんと発揮できるようになると思っています。

臨床の中でコミュニケーションスキルを磨いていくために

——コミュニケーションスキルって大切だと思うんです。大場さんは経験的に、臨床の中でどのようにコミュニケーションスキルを伸ばしていきましたか?

大場:人…広いけど「人」を知ることかなと思います。というのも、回復期から自宅に帰って、亡くなっていく方もいて…そんな人を見る中で、その人の社会的役割や生き甲斐になるものって何だろう?って考えるようになったんです。

もしかして、人ってそういうものがあるから、生きる意味を見出しているのかなって思ってきたんです。すると「この人は何を考えてるんだろう」をちゃんと考えていかないと、療法士としてやるべきことが見えなくなると感じたんです。

 患者さんにとっては「歩けないから回復期に来た」から、「歩けるようになりたい」と言う人が多い。でも「家事が出来るようになりたい」「趣味が出来るようになりたい」とわざわざ言う人は少ないんです。患者さん自身が生活をイメージ出来てないんですよね。

 つまり、社会的役割や生き甲斐が大切なのに、患者さんは歩きたい…と言う。そのギャップがあったんです。

——そのギャップに気付くためにも「人」を知らなければならない。

大場:歩きたい…って言うけど、本当はそれが一番ではないでしょ!って思ったんです。

——その結果、話しかけ方といったコミュニケーションが変化してきた?

大場:そうです。ちゃんと患者さんにとって「本当に必要な事」を知るために話し方などのコミュニケーションを変化させてきました。また、信頼関係を構築するようなコミュニケーションスキルも高めなければならない。そう迫られたんです。もちろん同時に、治療家としての結果もちゃんと出さなければならないとも感じています。

若い世代の療法士が一歩踏み出すために

——とはいえ「人」を知れ…と言われても難しいと思うんです。現実的に、そこに一歩踏み出すにはどうしたら良いでしょうか?

大場「振り返る」ことかな、と思います。自分が担当した患者さんがどのようになってるかな?って考えて欲しいです。回復期であれば「在宅復帰出来ればOK」と思ってしまうかもしれないのですが、その後に実際の生活を見てみると「もっとこうすれば良かった…」と感じることがあるんです。

——その振り返りが、人を知る一歩になると。

大場そうですね。今、退院後訪問にも取り組むようになったんです。その取り組みの中で気付く機会が増えてきているから、少しずつでも若い療法士に経験させてあげることが必要だと感じています。その中で、ゆっくりでもかまわないので「人」を知っていき、良い療法士になっていってもらえればと思います。


大場潤一郎先生の実績

◇学術活動

  1. 大場潤一郎, 西下智, 上島美紀, 家門孝行, 新原正之, 白銀暁, 吉田直樹: 3次元空間内の上腕運動範囲(Join Sinus Cone)の立体角の大きさに基づく利き手側と非利き手側の肩関節可動範囲の比較. 理学療法学, 38(suppl1), 2011.
  2. 吉村淳子, 大場潤一郎, 林健志, 吉田直樹: 人工股関節と人工膝関節が磁気式位置姿勢計測装置の計測精度に与える影響. 理学療法学, 40(suppl1), 2013.
  3. 柳本陽子, 大場潤一郎, 吉田直樹, 石田浩一, 松本憲二, 坂本知三郎, 坂本勇二郎: 健常者の布団をめくる動作パターンの確認-片麻痔患者の布団をめくる動作方法の指導に向けて-. リハビリテーション・ケア合同研究大会くまもと2011抄録集: 104, 2011.
  4. 家門孝行, 西下智, 上島美紀, 大場潤一郎, 新原正之, 白銀暁, 吉田直樹: 健常者肩関節における「sinusの立体角の大きさ」と「屈曲・伸展,水平外転・水平内転の範囲」の関係. 理学療法学, 38(suppl1), 2011.
  5. 新原正之, 田中利典, 家門孝行, 西下智, 大塲潤一郎, 長尾宗典, 上島美紀, 加茂麻衣子, 神田佳代子, 白銀暁, 吉田直樹: 3次元空間内の上腕運動範囲(Joint Sinus Cone)の計測-分回しタスクに基づく計測の限界-. 理学療法学, 37(Suppl2):1311, 2010.

◇講師歴

外部講師として「歩行分析」に関する講義・実技セミナーの経験が多数。

院内においても「脳画像から現象を読み解く」「起居動作の動作分析」などの勉強会を行っている。


インタビュー後記

効果的な理学療法を展開していくためには、その基盤として良質なコミュニケーションが図られていることが多いものです。大場さんが数々学んできた理学療法のスキルを最大限に発揮させるためにも、日々のコミュニケーションは重要であったようです。療法士はついつい患者さんの心を置き去りにしてしまうことが少なくありません。「人」をしっかりと見つめる…簡単な事ではなさそうですが、忘れてはならない事だと再確認させていただきました。

*現在PT-communicationsでは大場潤一郎氏をお招きして、歩行練習に関するセミナーを企画中しております。

2017年11月17日(金):歩行立脚期に対する評価・介入の実際 ~基礎知識からセルフエクササイズ指導まで~

2017.08.05

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