恐怖心による立ち上がり困難を自己効力感への介入によって改善した一症例

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臨床において恐怖心が問題となって動作が上手く出来ないという症例を見かける。

しかしながら恐怖心という曖昧なものを取り扱ってしまっているために、一体どのような評価をして、どのような介入をしてよいか分からないという場合は少なくない。

そこで紹介したいのは、私が「一回日本基礎理学療法学会学術集会・日本基礎理学療法学会第4回学術大会合同学会(2014) 」と「第27回大阪府理学療法学術大会(2015)」にて症例報告として発表した演題である(同一演題ではなく、発表内容は変更しています)。

心理的側面と立ち上がり動作について考察しながら介入したこの症例報告は、けっこうおもしろいと自負している。基礎学会の質疑応答ではかなり面白がってもらえたことは今でも覚えています。是非とも、読んでみて欲しい。

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臨床で遭遇する「恐怖心」という問題点

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恐怖心が問題で…という言葉を臨床で聴くことは少なくない。

  • 恐怖心から後方重心になっていて…
  • 恐怖心のせいで自立度が上げれなくて…
  • 恐怖心があるから負荷量を上げれません…
  • 恐怖心さえなければもっと良くなったのに…

実際、臨床では恐怖心が問題となっている事は確かな場合はある。しかし、検証の方法が見当たらず「結局安易に恐怖心って言ってるだけじゃないの?」と言われてしまうのがオチである(実際心身機能の評価が不十分で、恐怖心と曖昧なものに逃げてしまっている療法士も少なくない。それは許しません!)。

恐怖心の評価といっても学校で習うものはありませんし、論文検索してみても、目の前の患者さんの状況に適した評価方法に出会う事はそうそうありません。

学会にて報告したも、恐怖心によって立ち上がり動作(立ち上がりの可否・前傾動作)が制限されている症例でした。

心理的介入により立ち上がり時の体幹前傾が改善した一症例

まずは基礎学会で提出した抄録をみていただきたい(こちらの学会の抄録は今でもHPからダウンロード可能なので、時間があれば基礎分野がどのような演題を扱ってるかも少し見ていただきたい。明らかにコミュニケーションや心理分野は領域外である…心理も扱うって書いてたのに!)。

心理的介入により立ち上がり時の体幹前傾が改善した一症例

【目的】前方への恐怖心により体幹前傾が行えず立ち上がりが困難であった症例に対し、心理的介入を行ったことで恐怖心 が軽減し、体幹前傾角度に改善を認めたため報告する。

【方法】症例は転倒により仙骨骨折を受傷した70 代女性である。立ち上がり時の体幹前傾角度の評価は、立ち上がり時の最大前傾角度を算出した。恐怖心の評価は、他動的に体幹前傾させ「怖い」などの内省報告が生じた際の体幹前傾角度を指標とした。心理的介入は、転倒させないことを約束するなどの言語的説得、成功体験を蓄積させるために安全を確保し た中での体幹前傾練習を行った。

【結果】恐怖心は、介入前は前傾8.5°、介入後は前傾13.5°、立ち上がり時の最大前傾角度は、介入前は10.0°、介入 後は46.2°であった。

【結論】心理的介入により恐怖心が軽減し、体幹前傾に改善が認められた。立ち上がりに対する動作指導を行う際に、恐怖 心などの心理面も考慮する必要性が示唆された。

なお、大阪学会では立ち上がりの可否に着目した内容を発表している。同じ介入によって立ち上がりが出来なかったのに、出来るようになった!というものだ。

さて、ここからは実際の発表で使ったスライドを用いて解説していきたい。

症例は立ち上がり時に体幹前傾を行う事が出来ず、立ち上がることが困難であった。

体幹前傾について評価してみると、両上肢を組んだ状態で他動的に体幹前傾を行わせると8.5°で恐怖心を訴え、立ち上がり時の最大前傾角度は10.0°であった(実際には臀部離床が一瞬生じる程度)。また体幹前傾の際には恐怖心を訴えるような発言が多数みられた。

身体機能としては筋力低下などはあるものの、十分に立ち上がり可能なレベルであった。実際、体幹前傾のみを強制させることで立ち上がり動作が可能となっていた。しかし純粋な前傾練習のみを行っても改善することが出来ず、恐怖心の訴えも継続していた。

そこで恐怖心の源を自己効力感の低減と仮説を立て、心理的な介入を行うこととした。

ちなみに自己効力感とは、すごく平たく説明すると「自信」と言える。詳しい説明はググっていただきたい。本症例における恐怖心は「自分では体幹前傾をコントロール出来ない」と、認識してしまっているために生じているのではないかと仮説を立てた。

自己効力感を高める要素には4つが挙げられている。

  • 成功体験
  • 言語的説得
  • 代理経験
  • 生理的喚起

本症例では自己効力感の源として強い成功体験と言語的説得に着目して、介入を行った。

心理的介入というと大それたように感じてしまうかもしれないが、行っていることはシンプルである。

言語的介入では、松岡修造ばりに「出来る!」「頑張れ!」「転倒させないぞ!」と励ますことを行っている。成功体験では、体幹前傾しても安全なことを経験させ、大丈夫であることを振り返らせている。どちらも臨床では何気なく行われているような行為である。

ここで「それって学習の要素じゃないの?」と疑問が出てきそうだが、成功体験における介入で行っているものは前日までに言語的な要素のみを取り除いた状態で行っている。成功体験として処理させていない経験では、体幹前傾角度に改善は認めておらず、立ち上がりも不可能なままであった。

さて、心理的介入が少し分かりにくかったかもしれないが、上記のような介入を行った結果が上図になる。他動的な場面でも、立ち上がり時においても著明に体幹前傾角度が改善し、立ち上がりが可能となっている。抄録ではここまでしか述べていないが、この一度の介入によって症例は翌日以降も安定して立ち上がりが出来るようになっている。

正直なところ、ここまで結果がはっきりと出てくると思わなくて私自身もびっくりしました。決してねつ造データによって結果を出しているわけではありません笑。

ちなみに、恐怖心も自己効力感も評価尺度をとってません。「とってないから分からないじゃん!」と言われそうですが、それは本当にその通りです。今回のようなケースを適切に評価するスケールがないのが、大きな問題です。

そのため、理解していただける方には「それっておもしろいよね」と言っていただけるし、そうでない方には「これは厳しいよね」と思われてしまう発表でした。

この記事だけでは「?」な部分もあると思いますので、疑問点などは是非ともお会いした際に聞いていただければと思います。

自己効力感や恐怖心といった心理面を正しく扱う

臨床において自己効力感や恐怖心といった心理的要素が、患者の動作レベルや訓練内容に影響することは少なくはない。しかし、療法士にとってまだまだ馴染みのない概念であることが多いためか、適切な評価と介入が出来ていない場合が多いようです。

この報告もツッコミ可能な部分が多いですし、心理面の問題だと断言するにはまだ不十分です。多くの療法士が思っている「これ、心理面の影響だよね」をはっきりとさせるために、このような知見を積み重ねていくことは必要ではないでしょうか。

まだまだこれから、頑張ろう!

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