あなたの病院では患者さんに抑制ベルトやセンサーマットを使用していますか?
これらの身体拘束は患者さんの転倒を防ぐ大切なものですが、患者さんを不快にさせる道具でもあります。
「身体拘束したくないけど、でも転倒してしまうし…」という悩みは尽きません。
そんな悩みを解決するのが「抑制カンファレンス」です。
この記事では、まず身体抑制に関する基本的な知識について紹介し、続いて効果的な抑制カンファレンスの運用方法について解説します。
この記事の目次
身体抑制の基礎知識

MonikaP / Pixabay
身体拘束の定義
昭和63年に当時の厚生省が定義したものがあります。
「衣類または綿入り帯等を使用して一時的に該当患者の身体を拘束し、その運 動を抑制する行動の制限をいう」(昭和63年4月8 日 厚生省告示 第129 号における身体拘束の定義)
認知症や高次脳機能障害によって転倒リスクが高い患者さんに対して、身体を紐やベルトなどを用いて拘束をしている患者さんがいますよね。それです。病院において使われる器具や状況は下記のようなものが該当します。
- 抑制ベルト
- センサーマット
- ミトン
- 四点柵
- オーバーテーブル
- 部屋に鍵をかける
- ベッドや壁で移動出来ないようにする
病院などでは病気やケガを治す場所ですから、転倒して骨折してしまったら大変です。拘束して動けないようにしてしまえば、骨折することはないですもんね。
身体拘束のデメリット
身体拘束は我々医療者にとっては、転倒リスクを防いでくれるし、目を離しても大丈夫な時間を作れるし、心配しなくていいし…メリットが大きいのかもしれません。
しかし、患者さんにとっては下記のようなデメリットがあります。
- 不安・心配・怒り・屈辱などの精神的ストレスを生じる
- 拘縮・筋力低下・褥瘡などの肉体的ストレスを生じる
- オムツでの排泄を強制させる場合には、排尿便意を失う
- 家族にも後悔・苦悩・混乱を与える
- 人権が損害される
もしあなたが身体拘束されたらどのように感じるでしょうか?抑制ベルトをつけて、一日中車椅子に座ってる状態を想像してみてください…気持ちだけでなく、体も辛いのはすぐに想像できるはずです。
「緊急でやむを得ない場合」の3条件は許される
患者さんへのストレスが大きいため、身体拘束は基本的は行わないように指針が出されています。しかし、現実的にはそうもいかない場合があります。そんな時には下記の3条件が全て満たされている時、許可されると指針にあります。
- 切迫性:利用者または他利用者の生命、身体が危険にさらされる可能性が著しく高い場合
- 非代替性:身体拘束以外に代替する介護方法がないこと
- 一時性:身体拘束は一時的なものであること
読むと分かるのですが、条件といいながら概念です。人によって判断が分かれるのは当然のことです。そのため、一人のスタッフが勝手に決めるのではなく、チームとなって(場合によっては施設レベルで)検討しなければなりません。
日本看護倫理学会の身体拘束予防ガイドライン

そこで日本看護倫理学会がガイドラインを作成して、正しい身体拘束の判断が行われるよう(つまり、出来るだけ身体拘束を行わなくてもいいように)指針を出しています。
ガイドラインでは、年齢や疾患によらず全ての患者を対象にしており、危険な症状が出た時に症状の原因から安全策を考えて、ケアを見直す手順を述べています。また身体拘束を解除出来た実例も紹介されていて、役に立ちます。必ず一度は読んでおきましょう→直リンク(pdfがひらきます):こちら
身体拘束カンファレンスとは

出来るだけ身体拘束はゼロにしたいのですが、現実的にはなかなか外せない…というのが病院の実情。
そこで是非とも運用したいのが、身体拘束されている患者さんについてセラピスト・ナース・ドクターなどで話し合う「身体拘束カンファレンス」です。とはいえ、何をどう話していいか分からない…となってしまいます。カンファレンスでは下記の内容を話し合ってみましょう。
- 患者の確認
- 必要性
- 評価
- アプローチ
- 目標設定
- リスク管理
1.患者の確認
誰が抑制されてるの?
信じられないことかもしれませんが、どの患者さんに身体拘束がされているのか…そのレベルで確認することが第一歩です。
- あの患者さんも拘束されていたの!?
このような気付きが起こる場合が、実は少なくありません。知らなければ身体拘束を無くそう!という発想自体が生まれません。
しかし、そんな分かりやすい場面だけではありません。
- 実は夜間だけミトンをはめてベッド柵にくくられている
- 注入の時間だけミトンをはめている
- 車椅子からベッドに戻れないように四点柵をしている
上記のように「実は身体拘束」なんて場面が少なくありません。
「見たら分かるし!」と思っているうちは把握していないことがほとんど、まずは患者さんの確認から行っていきましょう。
2.必要性
実は必要なかった
身体拘束しているけれども、よくよく考えてみると必要なかった。という場合があります。
- 認知機能や運動機能が回復して、安全になってきた!
- 環境に慣れてきて、動作が安定してきた!
- ナースコールをいつも押してくれるようになった!
「当たり前じゃん!」と気付くようなことでも、長い時間患者さんと付き合っていると見落としてしまいがちです。抑制カンファレンスのように、身体拘束について考える機会があれば注意して患者さんの変化に気付くことが出来るものです。
難しいことを考える前に「本当に必要?」を考えてみましょう。
3.評価
なぜ、身体拘束が必要か?
危ないから!という単純な評価ではなく、深く深く掘り下げていってみましょう。
患者さんの気持ちになって考えてみると、実はいろんなことが見えてきます。
- ナースコールを押しても誰も来てくれないから一人で歩こうとする
- 転倒すると思ってないから一人で歩こうとする
- 排泄が我慢できなくてベッドから離れようとする
- お茶が飲みたいのにコップに手が届かないからベッドから身を乗り出す
- リハビリをもっとやらないと!と思って無理をしてしまう
- リハビリの時は安全に動けるから過信してしまう
実は上記のようにちょっとした思い込みや周囲への配慮から、患者さんが危ない動きをしてしまうことがあるのです。
ついつい「認知症があるから」「高次脳機能障害がひどいんでしょ?」と言いたくなってしまうものですが、そこに至る前に一人の人間の感情として、どのように感じているかを考えてみましょう。実は簡単な問題から身体拘束に至っている場合が少なくありません。
また、上述したガイドラインに載っているチェックリストは非常に有効です。下記に引用しておきますので、印刷して利用するようにしてください。
(日本看護倫理学会 臨床倫理ガイドライン検討委員会、身体拘束予防ガイドラインより)
4.アプローチ
評価したら治療!
評価から治療というのは理学・作業療法士の得意技です。上記の例を考えると…
- ナースコールには即座に対応する
- 転倒するリスクを丁寧に説明する
- 時間誘導でトイレに行ってみる
- 環境設定して快適なベッド周囲を提供する
- 安全に行える自主トレを伝える
- 安全な歩行と危険な歩行の違いを体感してもらう
このようなアプローチが適応するかもしれません。
このとき、理学・作業療法士だけでは出来ないことがたくさんあります。というか、病棟での生活を支える中心はやはり看護師さんでしょう、必ず実現可能なアプローチをみんなで考えるようにしましょう。
5.目標設定
期限を決めて、出来なければ再評価を!
理学・作業療法士の治療プロセスには評価→治療→評価という流れは絶対に必要ですよね。カンファレンスで、身体拘束を無くそう…と考えるときにも、同じような思考プロセスを利用しましょう。
上手くいかないときには必ず理由があります。しっかりとその理由を話し合って、より効果的なアプローチを検討していきましょう!
6.リスク管理
家族などに承諾を
「よっしゃー!どんどん外せ!」と言いたいところですが、病院にいるのに骨折などを起こしてしまっては「なんてことだ!」と患者さんや患者さんの家族が思うのは当然のことです。
転倒の危険性が高まることを踏まえて実施するか否かを、ドクターから患者さん・家族さんに確認してもらうようにしましょう。もちろん同意書を取っておきましょう、医療者の身を守ることも大切なことです。特に危険性が高いけれども…と挑戦する場合には絶対に配慮しておきましょう。
+α:外せなくても…
快適に過ごせるように
身体拘束が外れなければ意味がない!というわけではありません。外せなくても少しでも快適に過ごせるような工夫に変更することも抑制カンファレンスで重要な取り組みです。
- ストレスの少ない拘束具に変更する
- センサーが反応した時に音や光が出ないようにする
- センサーが反応して患者の元に行く時も穏やかに行くようにする
- 自由に動ける時間を少しでも確保する
- 気がまぎれるようなお茶会やレクリエーション活動を行う
実はちょっとした取り組みで患者さんの不快感は変わってくるものですし、不快感が減る事で危険行動が減少する場合もあります。
いきなり拘束ゼロは無理だし!と考える前に、患者さんの快適さをアップ出来るように考えることも大切です。
おわりに
世の中には身体抑制を行わずに認知症の人が暮らす場所や病院があります。出来れば全ての施設がそのようになればハッピーなのかもしれませんが、現実的にはいきなりゼロにするのは難しいものです。身体拘束に慣れてしまっている医療者ですから。
なので、最初は検討するところから、一人も外せなくてもかまわないのではないでしょうか?
ちなみに筆者の病院では、少しずつ身体拘束が減ってきています。外せるかな?という観点だけでも大きく変わってきました。まだまだ認知機能が手強い患者さんには上手くいきませんが、一歩ずつ進んでいます。
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